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やさしくわかる労働法 (1)

■労働基準法上の賃金

それでは、まず、基本中の基本である「労働基準法上の賃金」について確認してみましょう。

労働基準法では、次のように定義されています。

この法律で賃金とは、賃金、給料、手当、賞与その他名称の如何を問わず、労働の対償として使用者が労働者に支払うすべてのものをいう。
(労働基準法第11条)

ポイントとしては、「労働の対償として」というところが重要です。

要するに、私たちが会社からもらっている給料は、給与や賞与、手当といった様々な呼び方をされることがありますが、最終的には、一生懸命働いた労働の結果に基づいて、使用者である会社から支給されるものは、すべて、労働基準法上の賃金に該当するということになります。

具体的に、賃金になるものと、ならないものの例を見ていくことにしましょう。

賃金になるもの  賃金にならないもの
・給与/賞与
・退職手当
(任意的、恩恵的なものを除く。)
・税金や社会保険料の補助
・通勤手当
・出張旅費/宿泊費
・制服の支給
・生命保険料の補助
・解雇予告手当

まず、一番簡単な「給与」から説明しましょう。

会社員でもアルバイトでも構わないのですが、働いた結果として、会社から支給されるものは、まさしく労働基準法上の賃金に該当します。

私たちは、普通は「給与」とか「給料」などと言って、他と区別しますが、労働基準法では、「賃金」という言葉でひとまとめにしています。

「賞与」も考え方は同じです。

ただし、この後の退職手当のところでもお話ししますが、明確な支給条件がなく、任意的、恩恵的に支給されるものは除かれます。

すなわち、任意的、恩恵的に支給される賞与は、労働基準法上の賃金ではないということになります。

続いて、2つ目の「退職手当」ですが、こちらはやや迷うかもしれません。

給与と退職金が同じ賃金というのは確かに少し違和感があります。

この退職手当の性格については、いくつかの説があるのですが、行政解釈では、労働協約、就業規則、労働契約等によって、あらかじめ支給条件が明確である場合の退職手当は賃金とされています。

同様に、結婚手当等についても、労働協約や就業規則、労働契約等であらかじめ支給条件が明確である場合には、賃金に該当するとされています。

ただし、賞与と同じく、結婚祝金や死亡弔慰金、災害見舞金のようなものであって、会社から任意的、恩恵的に支給されるものは、原則として賃金とはみなされません。

裏を返せば、あらかじめ支給条件が明確でない場合は、労働基準法上の賃金には該当しない、とも言えるわけです。

しかし、出るか出ないかは、その時次第というのでは、労務管理上もコンプライアンス上も好ましい状態にあるとは言えないでしょう。

たとえ、賃金とみなされるとしても、あらかじめ支給条件を明確にしておくことをお勧めします。

ちなみに、労働協約、就業規則、労働契約の違いについては、このサイトの中で解説していますので、そちらをご参照ください。

>> 就業規則

ここでは、労働協約とは、会社と労働組合との間の取り決め、就業規則は、会社が定めた社内のルール、労働契約は、労働者が個別に会社と結ぶ雇用契約のことだと理解しておいてください。

続いて、「税金や社会保険料の補助」です。

こちらは、名称はどうあれ、本来、従業員が果たすべき法律上の義務を会社が従業員に代わって肩代わりするに過ぎないものですので、労働基準法上の賃金とみなされます。

その次の「通勤手当」ですが、出張旅費などと、どう違うのか、こちらもやや迷うかもしれません。

ただ、こちらは、通勤も労働のうち、と考えれば、その労働の対償として、賃金に該当すると考えればわかりやすいのではないでしょうか。

要するに、支給されるのがあたり前のようになっていますけど、実は、通勤手当を必ず会社が支給しなければいけないという義務は会社にはありません。

給与の中に含めてしまっても構わない訳ですから、考え方としては、結局、賃金と同じということになります。

それから、表の右側、賃金にならないものとしては、「出張旅費/宿泊費」、「制服の支給」があります。

こちらについては、実費弁償として会社が業務上の必要性から負担すべきものとして支出するものですので、労働基準法上の賃金には該当しません。

また、次の「生命保険料の補助」ですが、こちらについては、会社が従業員の福利厚生のために行うものという理由で、労働基準法上の賃金には該当しないとされています。

社会保険料とどう違うのかわかりにくいですが、税金や社会保険料は、給料に直接課されるもので、その意味で、会社が税金や社会保険料の補助を行うということは、単に給料の上乗せとも言えます。

一方、生命保険料の方は、従業員が任意に加入するものであり、労働の対償という意味合いはなく、会社からの恩恵的な給付ということで、賃金には該当しないと考えられます。

そして、最後に「解雇予告手当」です。

こちらは、その性格からしてもわかりますが、労働の対償とはいえませんので、労働基準法上の賃金には該当しません。

極端な言い方をしますと、お金を払うからここでもう働かなくていいよ、といった意味合いで渡すものですから労働の対償というのは変ですよね。

最後に、念のためですが、皆さんの理解にちょっと混乱がないように補足しておきますと、これまで解説したのは、あくまでも労働基準法上の賃金のことです。

税法上の「給与所得」や「報酬」などとは、確かに重なる部分は多いですが、考え方も範囲も異なりますので、ご注意ください。

(最終更新日: 2019年11月1日)


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